幼馴染み皇子の強引すぎる婚約破棄と溺愛
そして私は、馬車に揺られながら王宮へと向かっていた。

窓の外に広がる街並みを眺めていると、不意に幼い頃の記憶が胸によみがえる。

広い庭園で無邪気に走り回った日々。

草花を摘んでは「セシリアに」と差し出してくれたこと。

けれど私は幼い心で「可哀そうだからやめて」と言ってしまった。

あの時の少し拗ねたユリウスの顔を思い出すと、今でも切なくなる。

気づけば、私はいつしか彼を好きになっていた。

無邪気に笑う横顔も、剣を握る真剣な眼差しも。

どれも私にとって、かけがえのない大切な思い出だ。

「ユリウス……」

思わず小さく名を呟くと、胸が締め付けられた。

彼は今日、隣国の姫君と婚約を交わす。

公爵令嬢の私では決して届かない存在。

幼馴染みだからこそ祝いたいのに、本当に心から祝福できるのだろうか。

そう自問しながら、私は膝の上に置いた白い布に視線を落とした。

この日のために、眠れぬ夜を重ねて刺繍した一枚のハンカチ。

細やかな糸の模様に、叶わぬ想いを込めた私だけの贈り物。

その布をぎゅっと握りしめながら、王宮の門が見えてきた──。
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