幼馴染み皇子の強引すぎる婚約破棄と溺愛
「今日は……セシリアもワインを飲んでもいいだろう。」

意外な言葉に思わず顔を上げる。

あれほど厳しく、常に礼儀や節度を求めてきた父が、初めて自ら私のグラスに赤いワインを注いでくれたのだ。

「いいんですか。」

驚きと戸惑いが入り混じった声が出る。

「いいんだ。おまえも……結婚する相手を見つけたのだからな。」

その言葉に胸がじんわりと熱くなる。

父の表情は、厳格な大臣でもなく、公爵でもなく──ただ一人の父親として、感無量の思いに包まれていた。

隣でユリウスが静かにグラスを掲げる。

「公爵閣下……そしてセシリアへ。これからも末永くよろしくお願いします。」

父は頷き、私のグラスにも自分のグラスを軽く合わせた。

「……幸せになれ、セシリア。」

赤いワインが灯火に揺れ、グラスの中で深く輝く。

その一口は、幼い頃から夢見てきた未来が現実になろうとしている証のように、甘くも熱く喉を通っていった。
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