純愛初夜、次期当主は初恋妻を一途な独占愛で貫きたい。



 イチカワ化粧品のオフィスは、東京のオフィス街にそびえるガラス張りのモダンなビルにある。九時前、エレベーターが5階の営業部に到着すると、いつもの喧騒が耳に飛び込んでくる。
電話のベルが鳴り響き、キーボードを叩くリズミカルな音。同僚たちの笑い声や軽い雑談が混ざり合う中で私は自分のデスクにバッグを置き、パソコンの電源を入れた。
 モニターが立ち上がるまでの数秒、窓の外に広がる東京の街並みを眺める。ビルの谷間に見える空は、薄い雲に覆われていて、どこか私の心の奥底の不安を映しているようだ。
 今日の仕事は、新商品のファンデーションのプレゼン資料をまとめること。数字やデータを整理し、グラフに落とし込む地味な作業だけど、こういう仕事は嫌いじゃない。むしろ、細かい作業に没頭することで、頭の中の雑念を忘れられる気がする。



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