純愛初夜、次期当主は初恋妻を一途な独占愛で貫きたい。
「そういえば花暖ちゃん、仕事は退職したんだよね?」
「はい。会社にいづらくなって……」
「そうか。なら提案なんだが、うちの息子、千暁と結婚しない?」
頭が真っ白になる。千暁というのは清澄家の長男、次期当主さまのことだ。強面で、みんなが怖がるけど、私にはいつも優しく好きだった。
子供の頃、庭でスミレを摘んだ記憶もある。
「私には相応しくありません」
「そんなの関係ないよ」
だって、私は愛人の子。千暁さまみたいな人に、ふさわしくない。胸が締め付けられる。
「ごめんなさい! 私、帰ります!」
バッグを掴んで、書斎を飛び出す。メイド長が「花暖さま!」と呼ぶが、振り返らずに玄関へ向かった。
電車に揺られながら、アパートに帰る。スーツケースがやけに重い。清澄家の温かさは全部本物だ。
でも、千暁さまとの結婚だなんて、ありえない。愛人の子の私が、そんな夢を見ちゃいけない。窓の外、夜の街が流れる。母のラピスラズリのストラップを握りしめると、冷たい感触が心に沁みた。