純愛初夜、次期当主は初恋妻を一途な独占愛で貫きたい。



 その夜、私は夢を見た。夢というか、昔の記憶。8歳の夏、清澄家の庭。スミレの花壇で、彩花さんにワンピースを泥で汚されてしまった。
 分家の女の子何いつも意地悪な目で私を見る。

「愛人の子が、こんなの着るなんておかしいよね?」 


 彩花さんの笑い声、他の子たちもクスクス笑う。悔しくて、泣きそうになるけど、母さんが「泣かないで」って言ってたから、こらえる。
 するとそこに、千暁さまが現れる。中学生の彼、大きな体でみんながビビるのに、私には優しい。


「……彩花、なにしてる?」


 低い声に、彩花さんが縮こまる。

「な、なんでもないよ、千暁兄さま」

「花暖、泣くな。俺がいるから」


千暁さまの手、大きくて温かかった――そんな昔の記憶が、胸を締め付けていた。



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