純愛初夜、次期当主は初恋妻を一途な独占愛で貫きたい。
第5章  仮面の夜



 アパートのクローゼットを開けると、モーブ色のレースワンピースが静かに揺れていた。お母さんが私の成人祝いに買ってくれていたドレス。ふわっと広がるフレアスリーブ、Xラインのシルエットが上品で、淡い紫がかったピンク色。

 着るたびに、母の笑顔が胸に浮かぶ。あの笑顔は、いつも温かった。でも、今日、それを着る手が少し震える。
 だって、美奈さんに誘われた仮面パーティーに行くことになっているのだから。
 だけど婚約破棄と退職でボロボロの私が、こんな華やかな場所にいてもいいのかな……なんて気持ちもある。

 心の奥でそんな思いが渦巻き、胸が締め付けられた。
 そんな気持ちの中、スマホを手に取ると美奈さんからのLINEの通知がきた。


【19時に駅前ね! めっちゃ楽しみ!】


  彼女の明るい声が、文字越しにも弾けるように聞こえてくるようだ。
 だから私も同じテンションで返そうと文字を打った。


【私も楽しみにしてる。今日はよろしくお願いします】


そう、メッセージを送信した。



< 24 / 54 >

この作品をシェア

pagetop