明治誓いの嫁入り──政略結婚から始まる危険なほど甘い溺愛
「どうしても、財閥ではないといけないの?」

思わず口にした問いに、父は苦い顔をした。

かつて「金儲けに走った成り上がり」だと軽蔑していた財閥に、今や縋るしかないのだ。

「結婚したら支度金が入る。それに……結婚後も、融資してもらえるかもしれない。」

その声は必死で、かすれていた。

私は唇を噛み、俯いた。

この家をこれ以上没落させてはいけない──その思いだけが胸に重くのしかかる。

「……分かりました。嫁げばいいんですね。」

そう答えた時、父の顔にわずかな安堵が浮かんだ。

私の胸の奥で、なにかが静かに崩れ落ちる音がした。

愛もない結婚。

せめて恋くらいはしたかった──そう願った気持ちさえ、今はもう枯れ果ててしまった。
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