明治誓いの嫁入り──政略結婚から始まる危険なほど甘い溺愛
そして、相手の矢崎家から入った支度金で、私たちはどうにか命脈を保つことができた。

それでも嫁入りにあたり、調度品はそれ相応のものを用意せねばならない。

「この結婚衣装……お母さんが着たものなんだけど、澄佳にも似合うかしらね。」

母が箪笥から取り出した白無垢は、時の流れを感じさせるほど古びていた。

本来ならば新調すべきはずの花嫁衣裳。

だが今の桐島家に贅沢は許されなかった。

調度品も、飾り気のない簡素な造り。

没落した家には、むしろちょうどいい具合だと自分に言い聞かせた。

「ごめんね……本当ならもっと立派な支度をしてやりたかったのに。」

母は小さく肩を震わせ、目尻を拭った。

「いいえ。お母様の衣装を着られるなんて、私にとっては幸せです。」

笑顔を作って答えたものの、心の奥には涙が滲んでいた。

愛のない結婚に向かう私の足取りは、白無垢よりもなお重たく感じられた。
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