キミノオト

乗り場につくまで、途切れることなく話が続いた。

彼女の名前は、海音というらしい。

夏が似合う風貌の彼女は、名前からも夏を感じさせる。

どうやら、年齢は俺たちの一つ下で、今月誕生日らしい。

お友達の優麻さんは、俺たちと同い年で、男性アイドルが好きだと意気揚々と語っていた。

おそらくだけど、優麻さんは途中から俺たちの正体に気づいていたと思う。

名乗った後、まじまじと眼鏡の奥を探るように俺たちの顔を見ていたから。

それでもさすがアイドル好きなだけあって、俺たちのプライベートを優先してくれようとしたんだろう。

気づかないふりをしてくれたようだ。

正直、助かった。

今日はプライベートで遊びに来ているから。

反対に、海音ちゃんは全く気付いていないご様子。

それでいいはずなのに、ちょっとだけさみしいと思う俺は矛盾している。

「何名様ですか?」

乗り場につくと、キャストさんに人数をきかれ、あぁ、ここでお別れか、と素直に名残惜しいと感じた。

そんな気持ちをよそに、乗り物に乗り込むと、続いて彼女たちも乗り込んできた。

どうやらこのアトラクションは、1台最大6名乗りで、円を描くように座るタイプの乗り物のようだ。

他グループとの相乗りは普通らしい。

「よかったね。もう少しお話しできそうだね」

綾ちゃんがいたずらっ子のような顔で耳打ちしてきた。

「お隣、失礼します」

恥ずかしそうに小さな声でそう言って座った海音ちゃんがかわいくて、甘いにおいがして、なんかデートみたいじゃね?とか思った俺も存外あほなのかもしれない。
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