キミノオト

せっかく異動させてもらえたんだから、ちゃんとしなきゃ。

社会人である以上、働かないと生活していけない。

ほかに愚図な私を雇ってくれる会社なんて一生めぐりあえないだろう。

寝不足のせいで重い体を無理やり動かす。

支度を終え、玄関のドアを開けると、ちょうど同じタイミングで、隣室のドアが開いた。

「お、海音、おはよう!」

「おはよう優麻ちゃん」

隣室に住むのは、高校時代からの友人である橋詰優麻(はしづめゆま)。

今の私は、彼女のおかげで何とかやっていけているといっても過言ではない。

優麻ちゃんは高校時代のバイト仲間なんだけど、人見知りの私にも気さくに話しかけてくれて、話しているうちに意気投合したのがきっかけで仲良くなった。

1つ年上で、姉的存在でもある。

見た目はちょっと派手だけど、美人で、いつも明るくて、温かい。

男性アイドルが好きで、昔からよくライブのために都内に通っていた優麻ちゃん。

異動の話をしたら、アクセスがよくなるから自分も一緒に引っ越すって即決してたけれど。

たぶん、それは口実で、ぼろぼろの私を心配して一緒に引っ越す選択をしてくれたんだと思う。

でも、私に気を遣わせないために自分の趣味のためだよって笑って、寄り添ってくれる。

本当に優麻ちゃんの存在は救いでしかない。
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