キミノオト
全身から陽貴さんと同じ香りがする。
借りた部屋着からも陽貴さんの香りがして、まるで抱きしめられているような安心感。
「お風呂、ありがとうございました。あと、お洗濯も」
乾燥まで済んだ服を抱えてリビングに戻る。
陽貴さんは私を見て、一瞬で目をそらす。
え、まさか幻滅された?
すっぴんだし、借りた服もぶかぶかで引きずらないように裾を折って履いてるしみっともないって思われたかな。
「お化粧落とした?クレンジングわからなかったかな?」
「落としましたけど…」
普段使っているものと比べものにならないくらい、使い心地がよかった。
最初、女性の忘れ物かと思ったけれど、よく考えたら陽貴さん達も出演するときはメイクするから、クレンジングがあってもおかしくないことに気づいた。
疑ってごめんなさい。
心の中で謝っておく。
「顔変わんないね」
え、と小さく声をこぼすと、陽貴さんが慌てて補足する。
「すっぴんもかわいいってことね」
「アリガトウゴザイマス」
気を使わせちゃったかな…。
自分が醜いことはわかってる。
お化粧落とさなければよかったな。
「理性持つかな…」
ネガティブモードに入っていた私の耳には、陽貴さんの独り言は届かなかった。