キミノオト
はっとして口を覆うけど、もう遅い。
陽貴さんと目が合った。
「俺も男だよ」
余裕のなさそうなその表情を見て、一気に眠気が覚めていく。
はしたない女って思われたかも。
私なんかが、高望みしすぎたんだ。
お泊りできるだけでも幸せなのに、くっついていたいだなんて。
突然、陽貴さんが動きだした。
やっぱり、私が陽貴さんの彼女なんて、一瞬の夢だったんだ。
きっと今日の幸せな時間はなかったことになるんだろう。
そう思うと、血の気が引いていく。
ところが、離れて行ってしまうと思っていた陽貴さんは、気が付くとなぜか私の上に覆いかぶさっていた。
「嫌なら殴ってでもとめて」
右手が私の頬に触れ、中世的な顔が近づいてくる。
思わずぎゅっと目を閉じた。
陽貴さんの薄くて柔らかい唇が、私の唇に触れる。
何度も角度を変えて、深く。
私、陽貴さんとキスしてる。
待って、キスってこんな気持ちいいものだったっけ。
熱く甘く、でも私を気遣うような優しいキス。
しばらくして、やっと唇が離れたときには、私の息は上がっていた。
「これ以上は、止めれる自信ない。もう寝ようか」
もっとしてほしい、なんて言ったらはしたないと思われちゃうよね。
私は名残惜しさを感じながらも、頷く。
温かい陽貴さんの体温に包まれていると、再び眠気が襲ってくる。
なんだろう。
今日は久しぶりによく眠れそうな気がする。
もし、今日のことがすべて夢なら、もうこのまま眠りから覚めないで。