キミノオト

陽貴さんのおうちのテレビはとても大きく、さすがミュージシャンというべきか、スピーカーまで設置されている。

私のリクエストで、トリノコシのライブDVDを観ることになったんだけど、スピーカーの効果で音の重厚感がすごい。

「かっこいい」

画面にうつる陽貴さんに見とれて、思ったことがそのまま声に出ていた。

「本物隣にいるんですけど」

少し拗ねたような声に横を向くと、陽貴さんと目が合う。

「ライブ中の俺かっこいい?」

「かっこいいです」

「じゃあ、今の俺は?」

なんて、面白くなさそうにきいてくる。

まさか…

「ヤキモチですか?」

言ってすぐにハッとした。

こんなかっこいい人が、嫉妬なんてするわけない。

「…悪い?」

いや、当たってんのかい。

唇をとがらせていじけている姿がかわいくて、ファンの前では見せないであろうその姿にきゅんとした。

「もちろん、かっこいいですよ。ここにいる陽貴さんも、歌っている陽貴さんも、素敵です」

「俺のこと好き?」

おっと?

なんだかめんどくさい彼女みたいなモードに入ってないか?

私はさりげなくDVDを一時停止すると、体ごと陽貴さんに向き直る。

「大好きです」

どんどん体が熱くなっていく。

言いなれてないし、面と向かっていうのめちゃくちゃ恥ずかしい。

「じゃあ、海音からぎゅーして」

突然の呼び捨てに動揺する。

しかもお題もなかなかハードじゃないか。
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