キミノオト
ようやく唇が離れた時には、私の思考は完全に停止していた。
乱れた呼吸を整えていると、優しく抱きしめられる。
「ごめんね。つい夢中になっちゃって」
「私こそ、うまくできなくてごめんなさい」
自分の不慣れさが恥ずかしくなる。
「逆に安心だけどね」
どういう意味だろう。
「ところで、お願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「もう一回名前呼んで」
甘えるように見つめてくる。
こんな姿が見られるのは私だけの特権と思っていいよね?
「陽貴君」
「海音、大好き」
嬉しそうに笑ってくれる。
幸せだなぁ。
「私も大好きです」
「じゃあ、敬語もなしにしてみようか。もっと距離縮めたいし」
さらっと難しい要求を…。
「それは、ちょっとずつ…」
「じゃあ、一回敬語使うごとにキスするね」
それは罰ではない気がするけど、まぁ、いいか。
「頑張る」
私の返事に満足そうに笑うと、リモコンの再生ボタンを押す。
機嫌がいいのか、曲に合わせて歌っている。
こんな贅沢があっていいのだろうか。
隣に座る尊い存在に向き直ると正座して両手を合わせた。
「拝まないで」
笑いながら止められたけど、それくらい価値あるからね。
「もういつ死んでもいいかも」
「死なないで。まだまだこれからだから」
本当に初対面とイメージ違うんだけど、と、お腹を抱えて笑う陽貴君。
「もっと海音のこと教えて。ずっとそばにいさせてね」
最後は笑いすぎて涙がたまった瞳で、優しく微笑んでくれた。