キミノオト
淹れたての温かい紅茶をテーブルに置くと、おいで、と手を広げる陽貴君。
素直に抱き着くと、優しく頭をなでてくれる。
「ああいうこと、多いの?はじめて会った日もだったよね」
「最近は、たまに声をかけられることはあるけど、あんな強引に連れてかれそうになったのは、あの時と今日だけ」
そう、私が普段一人行動しないのはこれも理由の一つ。
気が弱く、きっぱり断れない私。
ましてや、それが男性になるとさらに委縮してしまう。
優麻ちゃんからも、一人で行動するときは、防犯ブザーを持ち歩けって言われてる。
周りに迷惑をかけまくっている自分が嫌になる。
「最近ますますかわいくなってきたしね…声をかけたくなる気持ちもわからないでもないけど」
ぼそっとつぶやいた声は、落ち込み中の私の耳には届かなかった。
「とりあえず、なるべく一人で歩くときは、人通りの多い道を選ぶこと」
「わかった…」
私の返事に、おりこうさん、と笑う。
「陽貴君」
「どうしたの?」
「キスして」
私の突然のおねだりに硬直している。
普段、こんな大胆なお願いをしない私。
ずっと頭の中を龍也の姿がちらついていて、不安で、怖くて。
余計なものを消してしまいたい。
「わかった」
陽貴君も何かを感じ取ったのか、そっと頬に触れると優しく唇を重ね、一瞬で離れる。
私は陽貴君の首に腕を回すと、自分から唇を重ねた。
陽貴君は驚いていたけど、すぐに頭に手を回し、深くキスしてくれる。
しばらくの間、静かな部屋に唇を重ねる音だけが響いていた。