キミノオト

今は塞ぎこみがちだけど、冷静でありつつ、元は明るくてアホな子だった。

思ったことがそのまま顔に出て、ころころ表情が変わるところがすごくかわいくて、私からぐいぐい話しかけて仲良くなった。

あの男と付き合いだしてから、人前に出るときにはマスクをするようになった海音。

理由をきいたら、少しでも醜い顔を隠すためだって言ってた。

これもあの男にかけられた一種の洗脳だ。

海音に顔を隠させることで、ほかの男にとられるリスクを減らしたかったんだろうけど。

自分は努力もせず、海音の行動を制限することで縛り付けようとしていた。

それだけじゃなく、海音と別れたくないくせに、欲に負けて浮気を繰り返していたクズ。

「スーパーに寄りたいんだけど、いい?」

下から覗き込むようにきいてくる海音。

「いいよ!海音、かわいい!!」

公衆の面前であることも忘れ、思わずぎゅっと抱きしめると、少し困ったように海音は言った。

「私なんて、全然だよ。優麻ちゃんこそかわいくて優しくて、神様みたい」

本当にこの子は、なんてかわいい生き物なんだ…

絶対に幸せになってもらいたい。

何か方法はないか…

あ、そうだ、あれはどうだろう!

一人頭の中で作戦を考えながら、スーパーで買い物をしてアパートへと帰った。
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