キミノオト
「私にも仕事があるし、生活リズムの違いとか、問題がたくさん出てくると思うよ」
私には自信がない。
陽貴君の大事な場所を壊してしまうんじゃないか、とか、問題に直面した時に乗り越えられるだろうか、とか。
どうしても悪い方にばかり考えてしまう。
陽貴君は、黙ったまま私の話をきいている。
「それに、家で集中して作業することが多いなら、なおさら他人がいるのは思ってる以上にストレスになると思う。邪魔だけはしたくない」
これが一番の理由。
大好きなトリノコシの音楽が、私のせいで聴けなくなってしまったらきっと私は私を許せないだろう。
「…わかった。でも、とりあえずこれだけ渡しておくね」
そういって手渡されたのは、陽貴君が使っていたのと同じカードキー。
「まずは、予定が会うときだけでいいから会いに来てほしい。もし予定が合わなくても、好きな時に来て」
「ありがとう」
私は受け取った鍵を大事に握りしめた。
「あ、じゃあ、私も」
私は部屋の中からスペアキーを持ってくると、陽貴君に渡した。
「ありがとう。今はこれで我慢するよ。でも、海音が一緒に住んでもいいって思ったときは、すぐにでも引っ越してきて」
「うん。ありがとう」
陽貴君の気持ちは素直にうれしい。
私は、この人を支えられる人間になりたい。
甘やかすだけじゃなくて、お互いを高めあえるようなそんな存在になるのが目標。
しばらく抱き合った後、満足した顔の陽貴君はタクシーで帰っていった。
何度か部屋の中に移動を促したんだけど、頑なに玄関から動こうとしなかったな。
なぜだろう。
もしかしてこの香り苦手だったかな。
少しもやもやしながらも、お風呂に入ってすぐに布団にもぐりこんだ。