キミノオト

------

「お邪魔します…」

貸してくれたカードキーを使ってお家に入る。

整理整頓された清潔感のあるこのお家は、大好きな彼と同じ香り。

陽貴君には家を出る前に連絡はしたけど、悪いことをしているようでなんだかドキドキしてしまう。

手を洗って、作り置き達を冷蔵室と冷凍室に分けて入れる。

初めてお邪魔した時より職務を全うしている冷蔵庫。

ほとんどが調味料と飲み物だし、一般的に見たら全然スカスカなんだけど。

持ってきたすべての料理を入れ終え、冷蔵庫の扉を閉じる。

「迷惑じゃなかったかな…」

ふいに口からこぼれる不安。

正直、作っているときから頭をちらついていた。

いつもおいしいって食べてくれるけど…もしかして作り置きは重い?

そもそも、優しいからおいしいって言ってくれるけど、本当は好みじゃない可能性もあるよね。

一度声に出してしまったら、思考はどんどん悪い方向に向かってしまう。

会いたいって言ってくれるのも、社交辞令だったかも。

休みなく働いてるんだもん、時間があるならゆっくりしたいよね。

それにどう考えても他人がうろちょろしている家で、仕事に集中できるはずがない。

浅はかだな自分…。

冷蔵庫の前ということも忘れ、しばらくあれこれ考えた結果。

「…帰ろうかな」

「いやいやそんなの許さないよ」

< 63 / 133 >

この作品をシェア

pagetop