キミノオト
突然背後から聞こえた声に驚いて、心臓が口から飛び出そうになった。
その声が誰のものかなんて顔を見なくてもわかる。
振り返ると、リビングの入り口で壁に身を預けて立つ大好きな彼。
まっすぐにこちらを見つめる視線が痛い。
なんで?遅くなるって言ってたよね?
「今から向かうって連絡くれたでしょ。移動で近くを通りかかったから、驚かそうと思って内緒で寄ってみたんだけど」
私の困惑を察したのか、聞く前に説明してくれる。
「驚くどころか、人が家に入ってきたことにも全く気付かないくらい考えこんでるとは思いもしなかったな」
なんだか少し怒ってる?
「で?帰ろうかなってどういうこと?」
ずんずん近づいてくる陽貴君に思わず後退る。
背中が壁に当たり、見事に追い詰められた私。
「帰りたいの?」
そうじゃない、と首を振る。
なんとなく顔が見れない。
顔の横を何かが横切り、直後ドンっと鈍い音がして、ぐっと近づいたきれいなお顔。
これが伝説の壁ドンってやつですね。
こんな状況なのにときめいてしまう自分を殴りたい。
「なんで黙ってるの?」
これ、やっぱり怒ってるよね。
どうしよう、優しい陽貴君を怒らせちゃった。
壁ドンへのトキメキなんかふっとんで、泣きそうになる。
『ホント使えねぇやつだな』
ふいに脳内で再生される龍也の言葉。
幸せに浸って考えないようにしていた。
そうだね、私には価値なんかない。
やっぱり私が幸せになるなんて、ただの夢物語だったんだ。