キミノオト

「怖い思いさせてごめんね。俺が無理言ってきてもらったから帰りたいのかと思って、無理させた自分にイラついただけで、海音に怒ってたわけじゃないんだ」

そういって、頭をなでてくれる優しい手。

「私も会いたいと思ってたよ。たぶん陽貴君よりもたくさんそう思ってた」

「なにそれかわいすぎ…」

そっと頭に添えられる右手。

「煽ったのは海音だからね」

会えなかった期間を埋めるように何度も角度を変えて重なる唇。

腰と頭に回った手が離れることを許さないと言っているようで、私はひたすら身を任せる。

ようやく解放されたころには、脚の力が抜けて床に座り込んでいた。

反対に陽貴君は満足そうな顔。

「もうそろそろ行かなきゃ」

時間を確認して残念そうにしている陽貴君を、肩で息をしながらぼーっと見つめる。

すると、突然ふわりと体が浮いた。

伝説のお姫様だっこ初体験。

「リアルに王子様すぎ…」

思わず口からこぼれた正直な感想に陽貴君が笑う。

「お気に召していただけましたか、姫」

「最高です」

そっと手を合わせて拝むと今度は噴き出して笑われた。

優しくソファにおろされ、手を握られる。

「なるはやで終わらせて帰ってくるから。帰らないで待っててね」

「うん。待ってる。頑張ってね」

私の返事を確認すると、おでこにキスを落として王子さまは家を出て行った。

途端に静かになった空間。

しばらくの間余韻に浸った私は、寂しさを紛らわすように夕食の支度をする。

荷物の整理やお風呂の掃除もして時間をつぶしたけれど、やることがなくなってしまった。

ソファに座ると、急に眠気が襲ってくる。

もうすぐ帰ってくるかななんて考えながらそっと目を閉じるとすぐに意識を手放した。

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