キミノオト
真っ暗で何もない空間。
『本気で幸せになれると思ってんの?』
突然かけられた声にびくっと肩がはねる。
もう二度と聞きたくなかった声。
おそるおそる声の主を確認する。
「龍也…」
うまく呼吸ができない。
『お前みたいなダメ人間が、愛されるわけないだろ』
「あなたと違って陽貴君は私を大切にしてくれてる」
必死に絞り出した声は震えていた。
『どうせすぐに捨てられるよお前なんか。大人しく俺のところに戻ってこい』
怖くなった私は、背を向けて必死に走り出す。
『俺から逃げられると思うなよ』
逃げることは許さないとでもいうように足に何かが絡みつく。
もがけばもがくほど全身に絡まって身動きが取れない。
そうこうしているうちにいつの間にか目の前に立っていた龍也。
ゆっくり手が伸びてくる。
こわい。
「いやっ!」
そこで意識が引き戻された。
飛び起きた私を心配そうにのぞき込む陽貴君。
上着を着ているということは、ちょうど帰宅してきたところなのだろう。
「大丈夫?かなりうなされてたけど」
「あ、ごめんなさい。寝ちゃってた。おかえりなさい」
何事もなかったように笑って見せるけれど、血の気が引いているのか指先がひんやりと冷たい。
悪夢にもほどがある。
最近は、前に比べたら悪夢の頻度も減っていたというのに、よりによってなんで今なの。
陽貴君と過ごせる貴重な時間なのに。