キミノオト
マンションを出ると、陽貴君の部屋の窓を見上げる。
これで、最後。
「ありがとう。ずっと大好きだよ」
タイミングよく、カーテンが開くのが見えた私は、慌てて物陰に隠れた。
慌てた様子の陽貴君がベランダに出てきて、あたりを見渡している。
ポケットに入れたスマホがずっと鳴っているけれど、きっと相手は彼だろう。
画面を確認すると、やはり陽貴君からだった。
電話には出ず、そのままポケットにスマホを戻すと、陽貴君が部屋に戻ったことを確認してその場を離れた。
アパートに帰り着いたころには、スマホの通知がとんでもないことになっていた。
リビングに座り込んで、電気もつけずにそれらを確認する。
ほとんどが陽貴君からの着信やメッセージだけど、その中に優麻ちゃんからのメッセージもあった。
ネットニュースには、すでに私たちの記事が掲載されていた。
おそるおそるSNSを確認すると、やはり否定的な意見が多く、胸が痛む。
私のせいで、陽貴君の印象が悪くなってしまった。
ごめんなさい、私なんかいなければ。
ピンポーン
突然鳴ったインターホンの音にハッとする。
モニターを確認すると、陽貴君だった。
帽子とマスクこそしているものの、最低限の変装。
走ってきたのか、息を切らしている。
ガチャガチャと鍵を差し込む音がして、合鍵を渡していたことを思い出した私は、あわててクローゼットに隠れる。
同時に、バンッとドアが開いた音がした。