キミノオト

駅近な私の会社は、お互いの家のちょうど真ん中あたりにある。

そのため、仕事の後に会うときはそのまま陽貴君のおうちにお邪魔するように陽貴君にお願いされた。

立地がいいのはありがたいんだけど、イベントの時は人が集まって居心地が悪い。

相変わらず、人込みは苦手だ。

なるべく人通りの少ない道で向かおう。

キラキラに飾り付けられた街並みには目もくれず、足早に歩く。

あちこちで写真を撮る楽しそうな声が聞こえてくる。

「ねぇねぇ、お姉さん一人?もしかして仕事帰り?」

「おうちこの辺なの?」

やっぱりこういうイベントの時はナンパも多いんだな。

「え、無視?ってかお姉さんかわいいね」

どうやら無視されてるらしい。

「ねぇってば!」

突然腕を引っ張られ、驚いた私は顔を上げる。

「無視しないでよ~」

「てか、まじでかわいくね?」

どうやら私に話しかけていたらしい大学生くらいの二人組。

「離してください」

まただ。

龍也の姿が頭の中でちらつき、血の気が引いていく。

「え~無理無理、せっかくのイブだしさ、1人で過ごさないで、俺らと遊ぼうよ~」

「お姉さんかわいいし、優しくするよ~」

「1人じゃないんで」

なんとか発したのは、今にも消えそうな情けない声。

「いや、1人じゃん」

たしかに今はそうだけど。

これから大好きな人と過ごすもん。

ぎゃははと笑っているその声が不快で、気分が悪い。
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