キミノオト
「海音!」
陽貴君の必死な声をきいて、また涙が溢れてくる。
「海音、いないの?」
ドアというドアを開けて私を探している陽貴君。
私はウォークインクローゼットの奥で息をひそめる。
陽貴君のために、もう会ってはいけない。
「どこ行っちゃったの…」
初めて聞く泣きそうな声に、飛び出してしまいたくなる。
部屋中を探し終えた陽貴君が出ていくと、私は荷物をまとめた。
幸いにも今年の出勤日は残り3日。
その後は年末年始の休暇に入る。
とりあえずはホテルに泊まって、年末年始は実家に帰ろう。
龍也に会うのが怖くて帰るのを避けていたけれど、陽貴君が私のことを忘れるまでこの部屋には帰らないように。
きっとそう時間はかからないだろう。
ブーブー
またスマホが鳴って、画面を確認すると、優麻ちゃんからの着信。
通話ボタンを押してスマホを耳に当てる。
「海音!ネットニュースみたんだけど大丈夫!?」
「大丈夫だよ」
「…泣いてた?」
なんでもお見通しなのね。
「私、陽貴さんと別れた」
「…え?ちょ、え?」
困惑している優麻ちゃん。
「私なんかが側に居たら、陽貴君が大事にしてきたものを壊しちゃう。陽貴君が大事だから、お別れしてきた」
「陽貴さんは納得してるの?」
「わからない。黙って出てきたから。でも、私のことなんてすぐに忘れるよ」
それはダメだよ、と、優麻ちゃんに怒られた。
「勝手なのはわかってる。でも、私には選択肢なんてないから」
「あま「優麻ちゃん、ライブ後の打ち上げあるんでしょ?私は大丈夫だから楽しんで!ね」」
何か言おうとしてたのはわかってた。
けど、何を言われても譲れない。
私は無理やり電話を終えると、家を出た。