キミノオト
「ちょっとでかけてくる」
リビングにいる両親に声をかける。
「気を付けてな」
「うん、車使うね」
久しぶりの愛車。
私が家を出てからは、いつ帰ってきても乗れるようにと、車の管理は父がしてくれていた。
少し海が見たくなって、10分ほどの距離にある海まで車を走らせる。
車内で流れる音楽は、もちろんトリノコシ。
1人なはずなのに、なぜか寂しくない。
なんなら安心感すらある。
一度でいいから、陽貴君とドライブデートしてみたかったな。
運転する陽貴君かっこいいだろうな。
免許持ってるって言ってたし、交代で運転すればお互い負担少ないよね。
なんて、もうかなわない妄想をしているうちに、駐車場についた。
すでに何台か車が停まっている。
車を停めると、シートを少しだけ倒し、曲の音量を小さくした。
心地よい波の音をききながら、きらきら光る星を眺める。
こっちは星空がよく見える。
少しだけ窓を開けると、海の香りがした。
落ち着く。
免許を取ってからというもの、しょっちゅう通っていたくらいお気に入りの場所。
一人で出歩くことがなくなってからは、来れてなかったけど。
ちょうど、音楽が切り替わった。
あ、これ、星の歌だ。
陽貴君の優しい歌声、波の音、輝く星空、海の香り。
少しだけ、緊張の糸が緩んだ気がした。