キミノオト

次の瞬間、私の体は座席に押し付けられていた。

「痛い!」

助手席にいた龍也が、私にまたがる。

「お前は、俺のだ」

「やだやめて!」

その瞬間、スマホが鳴った。

優麻ちゃんかもしれない。

さっき、ドアをガチャガチャされているところを動画で送っておいた。

藁にもすがる思いで、電話に出る。

「たすけ「おい、なにしてんだよ!!」」

龍也はスマホを取り上げると、後部座席へ叩きつけた。

「何するの」

「うるせぇ、お前は黙って俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ!」

腕をつかまれて、スマホを拾うこともできない。

「やめて!」

「うるさい口は塞いであげるね」

「いやー!」

全力で暴れて抵抗する。

「暴れんじゃねぇ!あいつがどうなってもいいのか!?」

その言葉に動きを止める。

陽貴君を引き合いに出されては、何もできない。

「そうそう、海音は、大人しくて従順でいないとね」

満足そうににやにや笑うその顔が近づいてくる。

気持ち悪い。

陽貴君のものとは全く違う唇。

必死に唇をかんで、中に入ってこないようにする。

癪に障ったのか、髪の毛を思いっきり引っ張られた。

「痛い!」

「お前は、俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだよ!役立たずが、変な抵抗してんじゃねぇよ!」

私の心が死んでいく。

…もういっか。

抵抗しても、どうせ無駄だし。

ここで逃げれたとしても、結局もう二度と大好きに人には触れてもらえないし、どうでもいいや。

諦めて、空を見つめる。

大人しくなった私を満足そうに舌なめずりして見る気持ち悪い男。

ヘッドレストに両手を縛り付け、シートが倒された。

相変わらず、車内には陽貴君の優しい歌声が流れる。

大好きな人の歌声を聴きながら、汚されていく自分が情けなくて、涙がこぼれた。
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