キミノオト
「海音!」
陽貴君の必死な声をきいて、また涙が溢れてくる。
「海音、いないの?」
ドアというドアを開けて私を探している陽貴君。
泣いているせいで漏れそうになる声を必死にこらえ、ウォークインクローゼットの奥で息をひそめる。
少しでも音を立てれば、耳のいい彼にはすぐ見つかってしまうだろう。
でも陽貴君のために、もう会ってはいけない。
「どこ行っちゃったの…」
初めて聞く泣きそうな声に、飛び出してしまいたくなる。
「まだ帰ってないの?靴はあるのに?」
そんな呟きにはっとする。
靴隠してない。
陽貴君の鋭すぎる観察眼にさらに身を縮こまらせる。
そんな私をよそにクローゼットも確認しにきたけれど、紳士的な陽貴君はささっと確認するだけで離れていった。
おかげで危機を脱した私。
部屋中を探し終えた陽貴君が落胆した様子で出ていくと、私は荷物をまとめた。
幸いにも今年の出勤日は残り3日。
その後は年末年始の休暇に入る。
とりあえずはホテルに泊まって、年末年始は実家に帰ろう。
龍也に会うのが怖くて帰るのを避けていたけれど、陽貴君が私のことを忘れるまでこの部屋には帰らないように。
きっとそう時間はかからないだろう。