失恋するまでの10日間〜妹姫が恋したのは、姉姫に剣を捧げた騎士でした〜
カーク20
安定期に入ったエステルの懐妊の知らせは、王国中を駆け巡る。
老いて病床にあったロータス元伯爵が「孫の顔を見るまでは死ねん」と歩く練習を始め、先走った国王両陛下から大量の贈り物が届き、ロータス領のあちこちでお祝いの祭りが開かれる中。
「カーク、カーク! ソフィアお姉様がロータス領に視察にくるんだって! この子が生まれる頃よ!」
王都から届いた知らせを振り回すエステルのお腹は、すでにふっくらとしていた。胎動も感じ始め、カークが触るたびに元気よく蹴りつけてくるところを見るに、活発な子のようだ。
「良かったな、と言いたいところだが、油断は禁物だぞ、エステル」
何せ計画が持ち上がるたびに、何度もご破産になった過去がある。主にソフィアの懐妊という慶事のために、だ。もちろんソフィア本人のせいではない。背後で糸を引いているのはあの腹黒元宰相補佐に違いないとカークは睨んでいた。この十年の間にソフィアは四人の子の母となっていた。王族が増えるのは喜ばしいことだが、さすがに矢継ぎ早が過ぎるのではないか。自分がなぜユリウスにこれほどまで悪意を持たれなければならないのか、未だ判明もしていない。
義理の兄となる相手に、会いたいか会いたくないかと言えば、会いたくない一択だ。この十年の間に幾度となく感じたことだが、絶対に気が合いそうにない。
思わず顔を顰めて見せれば、エステルが口元に手を当てて含み笑いをした。
「今度は大丈夫じゃないかしら。お姉様ったら、“自分の南部行きが実現するまで夫を寝室から締め出す”って書いているのよ」
呆気にとられたカークを見てさらに大笑いする。どうやら妻もまたソフィアの来訪が悉く潰された事情について、思うところがあったらしい。
「あのお姉様がこんな冗談を言うだなんてね。幸せそうで嬉しいわ」
きっと冗談ではないはずと心で反論しながら、後半の言葉だけは同意できた。カークがよく知るソフィアは、こんな明け透けな物言いをする人ではなかった。十年という月日と、夫や子どもたちと築く新しい関係が、彼女を変えたのだろうかと考える。
だがその変化は悪いものではないのだろう。過去のソフィアとの十九年の関係の中で、自分では引き出せなかった彼女の新たな魅力だ。
かつて乳兄弟として共に過ごした敬愛する女性のことを思い出しながら、おそらくその彼女にベタ惚れで、なのに寝室から閉め出されてしまう嫌味な男のことを想像して、ざまぁみろと溜飲を下げるのだった。
月満ちて、エステルは女の子を出産する。
父から空色の瞳を、母から深緑の髪色を受け継いだ赤子はゾーイと名付けられた。
命を意味する名とともに、南部の自然に囲まれてすくすくと育った彼女は、長じた後、ソフィアの第一子であり、父ユリウスに最も似ていると称される王太子セオドアから熱烈な求婚を受けるも、「南部から離れるつもりはありません」とプロポーズを一蹴。父であるカーク・ロータス伯爵がざまぁみろと大いに喜ぶことになるのだが、それはまた別の話だ。
老いて病床にあったロータス元伯爵が「孫の顔を見るまでは死ねん」と歩く練習を始め、先走った国王両陛下から大量の贈り物が届き、ロータス領のあちこちでお祝いの祭りが開かれる中。
「カーク、カーク! ソフィアお姉様がロータス領に視察にくるんだって! この子が生まれる頃よ!」
王都から届いた知らせを振り回すエステルのお腹は、すでにふっくらとしていた。胎動も感じ始め、カークが触るたびに元気よく蹴りつけてくるところを見るに、活発な子のようだ。
「良かったな、と言いたいところだが、油断は禁物だぞ、エステル」
何せ計画が持ち上がるたびに、何度もご破産になった過去がある。主にソフィアの懐妊という慶事のために、だ。もちろんソフィア本人のせいではない。背後で糸を引いているのはあの腹黒元宰相補佐に違いないとカークは睨んでいた。この十年の間にソフィアは四人の子の母となっていた。王族が増えるのは喜ばしいことだが、さすがに矢継ぎ早が過ぎるのではないか。自分がなぜユリウスにこれほどまで悪意を持たれなければならないのか、未だ判明もしていない。
義理の兄となる相手に、会いたいか会いたくないかと言えば、会いたくない一択だ。この十年の間に幾度となく感じたことだが、絶対に気が合いそうにない。
思わず顔を顰めて見せれば、エステルが口元に手を当てて含み笑いをした。
「今度は大丈夫じゃないかしら。お姉様ったら、“自分の南部行きが実現するまで夫を寝室から締め出す”って書いているのよ」
呆気にとられたカークを見てさらに大笑いする。どうやら妻もまたソフィアの来訪が悉く潰された事情について、思うところがあったらしい。
「あのお姉様がこんな冗談を言うだなんてね。幸せそうで嬉しいわ」
きっと冗談ではないはずと心で反論しながら、後半の言葉だけは同意できた。カークがよく知るソフィアは、こんな明け透けな物言いをする人ではなかった。十年という月日と、夫や子どもたちと築く新しい関係が、彼女を変えたのだろうかと考える。
だがその変化は悪いものではないのだろう。過去のソフィアとの十九年の関係の中で、自分では引き出せなかった彼女の新たな魅力だ。
かつて乳兄弟として共に過ごした敬愛する女性のことを思い出しながら、おそらくその彼女にベタ惚れで、なのに寝室から閉め出されてしまう嫌味な男のことを想像して、ざまぁみろと溜飲を下げるのだった。
月満ちて、エステルは女の子を出産する。
父から空色の瞳を、母から深緑の髪色を受け継いだ赤子はゾーイと名付けられた。
命を意味する名とともに、南部の自然に囲まれてすくすくと育った彼女は、長じた後、ソフィアの第一子であり、父ユリウスに最も似ていると称される王太子セオドアから熱烈な求婚を受けるも、「南部から離れるつもりはありません」とプロポーズを一蹴。父であるカーク・ロータス伯爵がざまぁみろと大いに喜ぶことになるのだが、それはまた別の話だ。


