令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



 今日は二人で郊外の温泉地へ日帰り旅行。電車に揺られながら、窓の外の景色が都会のビル群から緑豊かな田園風景へと変わっていく。車窓を流れる田んぼや遠くの山並みが、芙美の心をゆっくりとほぐしていった。侑は窓際に座り、時折外を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「こういうの、久しぶりだな。仕事ばっかりだったから」
 その声には、どこか懐かしさと安堵が混じっていた。芙美は彼の横顔を見ながら、軽く笑った。
「じゃあ、今日は思いっきりリフレッシュしなきゃね」
 その言葉に、侑は少し照れたように目を細め、柔らかな笑みを返した。二人の間に流れる空気が、まるで電車の揺れに合わせて軽やかに響き合うようだった。

 目的地の温泉地に着くと、通りには湯けむりが漂い、饅頭や地酒を売る小さな店が軒を連ねていた。石畳の道には、観光客の笑い声や、どこか懐かしい雰囲気が漂う。二人は並んで歩き、甘い饅頭を分け合ったり、地元の果物ジュースを試したりした。普段の都会の喧騒から離れたこの場所で、時間がゆっくりと流れていく。

 足湯のコーナーを見つけた二人は、靴を脱いで並んで腰を下ろした。温かなお湯が足を包み、心地よい熱が体を巡る。芙美は、湯気の向こうに広がる山の稜線を眺めながら、ふと侑の横顔を見つめた。眼鏡の縁に映る光、穏やかな表情、時折髪を揺らす風。彼の存在が、こんなにも心を満たすことに、彼女は静かに驚いていた。



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