令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~

第5話 思わぬトラブル



 温泉街の石畳の通りを歩きながら、吉川芙美は心からリラックスしていた。湯けむりが漂う空気の中、饅頭や地酒を売る店の看板が並び、観光客の笑い声が遠くに響く。
 秋の陽射しが、色づき始めた木々の葉を柔らかく照らし、穏やかな時間が流れていた。三浦侑と並んで歩くこの瞬間が、まるで夢のように温かく、芙美の胸を満たしていた。

 二人は雑貨店に立ち寄った。店先に並ぶ手作りの陶器や小さなアクセサリーが、素朴な魅力で目を引く。芙美は、花柄の小皿に目を奪われ、そっと手に取って眺めた。その瞬間、バッグの肩ひもが棚の角に引っかかり、がしゃん――乾いた音とともに、小皿が床に転がり、ぱきりと割れてしまった。


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