令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
一瞬、時間が止まったように感じられた。
「す、すみません!」
芙美は慌てて店員に頭を下げた。胸の鼓動が早鐘のように鳴り、顔から血の気が引いていく。情けなさと恥ずかしさが一気に押し寄せ、彼女の心を締め付けた。
――せっかくの楽しい旅行なのに、私の不注意で……。
初めての遠出を、特別な思い出にしたかったのに、自分のドジで台無しにしてしまった気がした。涙がにじみそうになり、芙美は唇を噛んで下を向いた。
そのとき、横にいた侑がさっと前に出た。
「こちらで弁償させていただきます」
落ち着いた声で、侑は店員にそう告げた。
すぐに財布を取り出し、支払いを済ませる姿は、仕事で見せる頼もしさそのものだった。眼鏡の奥で光る瞳には、動揺する様子はなく、ただ穏やかな誠実さが宿っていた。
芙美は、侑の背中を見つめながら、胸の奥に複雑な感情が広がるのを感じた。申し訳なさと、彼への感謝が混じり合い、言葉にならない。