令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~

第7話 和解の夜



 土曜の夜。
 吉川芙美はベッドに横になっていたが、眠気は一向に訪れなかった。カーテンの隙間から漏れる都会の光が、部屋の天井に淡い影を落としている。窓の外では、遠くで電車の音が響き、夜の静けさが街を包む。だが、芙美の頭の中には、昼間の会話が何度も蘇っていた。
 
 芙美は、ベッドの上で体を起こし、枕元のスマートフォンを手に取った。画面には、侑からの謝罪のメッセージが浮かんでいた。

【ごめん。言い方きつかったかも。芙美が楽しそうにしてたの、ちゃんとわかってたよ】

 その言葉を何度も読み返したが、返事を打とうと指を動かすものの、言葉がうまく出てこない。謝罪を受け入れたいのに、胸の奥に残るモヤモヤが、彼女を躊躇させていた。恋愛に慎重だった自分。侑との関係が始まったばかりだからこそ、こんな小さなすれ違いが、大きな不安を呼び起こすのかもしれない。
 そのとき、スマートフォンが小さく光った。侑からの着信だった。
「……出ようか、どうしようか」
 芙美は一瞬迷ったが、深呼吸して通話ボタンを押した。
「もしもし」
 少し沈んだ声で出ると、すぐに侑の落ち着いた声が返ってきた。
「芙美、起きてたんだな」
 その声には、いつも通りの穏やかさと、どこか申し訳なさそうな響きが混じっていた。
「うん……」
 芙美の声は小さく、胸のざわめきを隠しきれなかった。短いやりとりの後、電話の向こうにしばしの沈黙が流れた。部屋の静けさと、遠くで響く街の音が、まるで二人の心の距離を際立たせるようだった。



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