令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



 侑は、カップをテーブルに置き、静かに芙美の手を取った。
「俺には、強がらなくていい」
 その低い声に、芙美の胸の奥がふっと揺れた。侑の手の温もりが、彼女の冷えた指先にじんわりと伝わる。眼鏡の奥の瞳は、真っ直ぐに彼女を見つめ、迷いのない誠実さを宿していた。
「……侑」
 芙美は、うつむいて、指先をぎゅっと握った。胸の奥に、言葉にならない感情が込み上げる。

「私ね、いつも人に頼るのが下手で……。迷惑かけちゃいけないって思ってばかりで」
 言葉を重ねるうちに、じわりと目に涙がにじんできた。仕事の疲れや、侑との関係を大切にしたいという思いが、彼女の心の中で複雑に絡み合っていた。自分で抱え込む癖が、こんな瞬間にも彼女を縛っていた。
 侑は、黙って頷き、ポケットからハンカチを差し出した。


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