令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~



 別の日、休日の午後。二人は街の小さな本屋を訪れた。木製の棚に並ぶ本の匂いと、ページをめくる音が、静かな空間を満たしている。芙美は、文芸書のコーナーで気になる小説を手に取り、侑はデザイン関連の雑誌をじっくり眺めていた。
「お互いのおすすめ、交換して読もうよ」
 芙美が本を手に提案すると、侑は少し驚いたように目を上げ、笑った。
「いいね。……じゃあ、読み終わったら感想をちゃんと言うこと」
 その小さな約束が、まるで二人だけの特別な習慣のように感じられた。二人は本屋を出て、近くの公園のベンチに並んで腰掛けた。秋の陽射しが、ベンチの周りを柔らかく照らし、木々の葉がそよ風に揺れる。芙美は、侑の横顔を見ながら、そっと本を手に持った。
 ――こんな時間が、こんなにも心を満たすなんて。
 日常の一場面一場面が、以前よりも鮮やかに輝いて見えた。笑い合い、時に価値観の違いでぶつかり合い、そしてまた寄り添う。その繰り返しが、二人の関係をより深く、確かなものにしていた。




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