令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
「芙美さん、こんなところにいたんですね」
振り返ると、そこには三浦侑が立っていた。カジュアルな白いシャツに、軽く羽織ったグレーのジャケット。手に持った展示のパンフレットが、風に揺れるように軽く動いている。彼の眼鏡の奥で、穏やかな笑みが静かに光っていた。仕事の場で見るきりっとした姿とは違い、どこか柔らかで親しみやすい雰囲気をまとっている。芙美の心臓が、一瞬だけ強く跳ねた。
「侑さん……また偶然ですね」
彼女の声は少し照れを含んでいた。自分でもそのことに気づき、頬がほのかに熱くなるのを感じた。侑は軽く笑って、彼女の隣に並んだ。
「ほんと、最近こういう偶然が多いですね。なんだか不思議な気分です」
その言葉に、芙美は小さく頷いた。二人は自然と展示を見て回ることにした。静かな会場の中、絵画や写真を眺めながら、会話が弾み始めた。仕事の話から始まり、好きな色やアートの好み、子どもの頃の思い出へと話題が広がっていく。侑が好きなのは、シンプルながらも深い色合いの抽象画。芙美は、風景や日常を切り取った写真に心を惹かれる。そんなさりげない好みの違いを知るたびに、互いの新たな一面が少しずつ見えてくる。
芙美は、侑の話に耳を傾けながら、自分の心が自然に開いていくのを感じていた。普段は慎重で、初対面の人に心を許すのに時間がかかる彼女だったが、侑の落ち着いた口調や、時折見せる少年のような笑顔が、彼女の心をそっと解きほぐしていた。