令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~




 午後の仕事の合間、芙美はふとスマホを手に取った。画面には、侑からの新しいメッセージが届いている。
「今日の帰り、少し一緒に歩きませんか?」
 その一文を読んだ瞬間、芙美の唇に自然と笑みがこぼれた。心がじんわりと温かくなり、まるで胸の奥に小さな花が咲くような感覚だった。彼女はすぐに返信を打ち、仕事に戻ったが、頭の片隅には、夕暮れに侑と歩く時間がすでに描かれていた。この人と一緒にいると、日常の景色までが優しく色づく気がした。


 帰宅途中、二人は小さな公園のベンチに腰を下ろした。夕焼けの光が地面に長く伸び、木々の葉を黄金色に染めている。そよ風が吹き抜け、芙美の髪を軽く揺らした。公園には、子どもたちの笑い声や、遠くで鳴る自転車のベルが響き合い、穏やかな時間が流れていた。
「今日も、楽しかったです」
 芙美がぽつりと呟くと、侑は軽く微笑んで答えた。
「僕もです。芙美さんと過ごす時間は、なんだかほっとしますね」
 その声は穏やかで、ほのかな照れが混じっていた。芙美は、侑の言葉に胸が温かくなるのを感じた。普段は冷静で、仕事に没頭するタイプの侑が、こんな風に素直な気持ちを口にする。そのことが、芙美の心に小さな喜びを灯した。

 二人の間に、以前のようなぎこちなさはもうなかった。カフェでの会話、並んで歩く足音、手の触れ合い――それらが、まるで日常に溶け込むように、自然な一部になっていた。芙美は、侑の隣に座る自分の姿を、まるで新しい絵画の一部のように感じた。
 ふと、侑の手がベンチの上で芙美の手にそっと触れた。ほんの一瞬の、軽い温もりだったが、それが彼女の心に静かな波を立てた。視線が交わり、互いに微笑む。その瞬間、言葉はいらない。目が合うだけで、胸の奥に温かなときめきが広がった。


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