令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~

第10話 告白の予感



 週末の夕暮れ、吉川芙美は駅前の広場を歩いていた。空はオレンジから紺色へとゆっくり移り変わり、街の灯りが一つずつ点り始めていた。通りには、買い物を終えた人々や、週末を楽しむカップルの笑い声が響き合い、穏やかな喧騒が広がっている。芙美はコートのポケットに手を入れ、そよ風に揺れる髪を耳にかけながら、ゆっくりと歩みを進めていた。
 ――あの人と過ごす時間が、こんなに心地よいなんて。
 侑との時間が、芙美の心に静かな彩りを加えていた。カフェでの会話、公園でのひととき、手の触れ合い――それらが、まるで春の花が咲くように、彼女の日常に温かな光を投げかけていた。恋愛という言葉に慎重だった芙美だが、侑の穏やかな笑顔や、さりげない優しさが、彼女の心を少しずつ解きほぐしていた。
 ふと足を止めると、背後から聞き覚えのある声がした。

「芙美さん、こんなところで会うなんて偶然ですね」
 振り返ると、そこには三浦侑がにこやかに立っていた。カジュアルな白いシャツに、軽く羽織ったネイビーのジャケット。週末らしい、どこかリラックスした表情が、眼鏡の奥で柔らかく光っている。芙美の胸は、思わず小さく跳ねた。
「侑さん……本当に偶然ですね」
 彼女の声には、ほのかな照れが混じっていた。自分でもそのことに気づき、頬がじんわりと熱くなる。だが、侑の穏やかな笑顔を見ると、自然と笑みがこぼれた。
 二人はそのまま広場のベンチに腰を下ろし、街の景色を眺めた。夕暮れの光が、地面に長い影を落とし、遠くで電車の音が響く。会話は、日常のさりげないことから始まった。仕事の話、最近見た映画、この街の好きな場所。だが、いつもと少し違う空気がそこにあった。言葉の端々に、互いを意識する微妙な緊張感と、温かな信頼感が混じり合っていた。

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