令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~


 芙美は、心の奥でもどかしい感情に気づいていた。
 ――私、侑さんのこと、もっと知りたい。それ以上に、近くにいたい。
 その思いが、胸の奥で静かに、だが確かに膨らんでいた。侑との時間は、まるで心の奥にしまっていた扉をそっと開くように、彼女を新しい世界へと導いていた。恋愛に遠慮していた自分。それでも、侑の存在は、彼女の日常に特別な輝きを添えていた。
 侑もまた、心の中で同じ気持ちを抱えていた。ベンチに座り、芙美の横顔をちらりと見つめる。彼女の髪が夕暮れの風に揺れ、街灯の光にほのかに輝く。その姿に、侑の胸の奥が熱くなった。普段は冷静で、仕事に没頭する彼だったが、芙美のさりげない仕草や、話すときに少し笑う声が、彼の心を静かに揺さぶっていた。
「……芙美さん」
 侑の声に、芙美はドキッと心臓が跳ねた。だけど悟られないように「はい」と言う。
「……なんですか?」
 彼女は自然な笑顔を作ろうとしたが、声はわずかに震えていた。侑の視線が、いつもより真剣な光を帯びていることに気づき、胸の鼓動が速くなる。
「実は……話したいことがあって」
 侑の言葉に、芙美は息をのんだ。心がざわつき、頭の中が一瞬空白になる。この人は、何を言おうとしているのだろう。期待と不安が、胸の中でせめぎ合っていた。


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