令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~


 帰り道、二人は小さな公園を抜けた。夕暮れの光が地面に長く伸び、木々の葉を黄金色に染めている。そよ風が吹き抜け、芙美の髪を軽く揺らした。公園のベンチに腰を下ろすと、二人は自然と肩を寄せ合った。
「今日は、本当に楽しかったです」
 芙美の声には、自然な笑みと、ほのかな期待が混じっていた。彼女は、自分の言葉がこんなにも素直に口から出たことに、内心で少し驚いていた。
「僕もです。芙美さんと一緒にいる時間が、こんなに心地よいなんて」
 侑が少し照れたように笑う。その言葉に、芙美の胸が温かくなった。侑の瞳には、誠実さと、どこか少年のような純粋さが宿っている。その視線に、芙美の心は静かに揺れた。
 ベンチの上で、侑の手が芙美の手にそっと重なった。ぎこちなさはなく、むしろ互いを意識した優しい温もりがあった。芙美は、その手の感触を、まるで宝物のように胸に刻んだ。初めての距離感が、二人の心をさらに近づけているように感じられた。

 夜空の下、二人は公園を抜け、駅に向かって歩いた。街灯の光が、二人を柔らかく照らす。無言の時間が流れたが、その沈黙は不安ではなく、心地よさに満ちていた。手の温もりと、時折交わる視線だけで、互いの気持ちが伝わっていた。
 芙美は、侑の隣を歩きながら、心の中で静かに思った。
 ――この一日が、これからの物語を少しずつ彩っていく。
 侑もまた、芙美の横顔を見つめながら、同じことを感じていた。この初めてのデートが、まるで新しいキャンバスに最初の色を塗るように、二人に確かな信頼と甘い予感を残していた。



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