令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~


 仕事が終わり、芙美は帰り道でスマホを握りしめていた。秋の夜風が頬を冷たく撫で、街灯が歩道を柔らかく照らす。少しの緊張と、昨日の誤解を解きたい気持ちで、胸がいっぱいだった。やがて、スマホが震え、画面に侑の名前が表示された。
 深呼吸して、芙美は電話に出た。
「芙美さん……昨日の返事、短くてごめん。忙しくて、ちゃんと考えられなかったんです」
 侑の声は、誠実さとほのかな恥ずかしさを帯びていた。その声に、芙美の心に溜まっていたモヤモヤが、まるで風に吹かれるように少しずつ薄れていく。
「私も……勝手に不安になってしまって。ごめんなさい」
 芙美の声も、自然に落ち着いていった。侑の誠実な言葉が、彼女の心に温かな光を投げかけるようだった。電話の向こうで、二人の呼吸が自然と揃う瞬間があった。言葉を交わすたびに、互いの誤解がゆっくりと解けていく。

 「本当に、ただ忙しかっただけなんです。芙美さんに変な気持ちをさせたくなかったのに……」
 侑の声には、どこか申し訳なさが混じっていた。芙美は、電話越しに彼の真剣な表情を想像し、胸がじんわりと温かくなった。
「ううん、侑さんがそんな風に言ってくれて、ほっとしました」
 その言葉に、侑の声も軽く笑うように柔らかくなった。
「よかった。じゃあ、また近いうちに、ちゃんと会って話しましょう」
 その約束に、芙美の心に小さな花が咲くようだった。



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