令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~

第13話 甘くて特別な夜



 週末の夜、吉川芙美は小さなレストランの重い木製の扉をそっと開けた。今日のディナーは、三浦侑が予約してくれた、二人だけの特別な時間だ。胸の奥では、期待と緊張が小さな波となって揺れていた。

 ――こんなに緊張するのは、久しぶりかも。

 店内は、柔らかなオレンジ色の灯りに包まれていた。壁に飾られた小さな絵画、テーブルに揺れるキャンドルの光、窓の外に広がる夜の街の灯りが、静かなきらめきを放っている。芙美は、案内された席に向かいながら、ふと侑の姿を見つけた。彼はすでに席に座り、穏やかな笑顔で彼女を迎えた。白いシャツにダークグレーのジャケット、眼鏡の奥で光る瞳には、いつもより少しだけ特別な温かさが宿っているように見えた。
「来てくれてありがとう、芙美さん」
 侑の声は柔らかく、誠実な響きを帯びていた。芙美の胸が、軽く、だが確かに跳ねた。
「こちらこそ、楽しみにしてました」
 彼女は微笑みながら席に着き、侑の視線にそっと目を合わせた。その一瞬、互いの視線が合うだけで、心がじんわりと温かくなった。まるで、日常の喧騒から切り離された、二人だけの小さな世界が生まれたかのようだった。

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