令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~

第14話 心を重ねる時間



 休日の朝、吉川芙美はゆっくりとカーテンを開けた。柔らかな秋の光が部屋に差し込み、窓の外の街並みを優しく照らしていた。通りには、週末の穏やかな喧騒が広がり、遠くで響く自転車のベルや、朝の買い物客の声が聞こえる。芙美は、窓辺に立ちながら、深呼吸して新鮮な空気を吸い込んだ。
 今日は、侑さんと一緒に過ごす日だ。
 その思いが、彼女の心を軽く高鳴らせた。侑とのこれまでの時間――カフェでの偶然の再会、美術展での触れ合い、初デートの温もり、告白の瞬間――が、まるで一本の糸で繋がれているように、彼女の心に鮮やかに刻まれていた。恋愛に慎重だった自分。それでも、侑の穏やかな笑顔や誠実な言葉が、彼女の心に新しい扉を開いていた。

 朝食を簡単に済ませ、芙美は小さなバッグを持って外に出た。秋のそよ風が頬を軽く撫で、街路樹の葉が揺れる音が心地よく響く。待ち合わせ場所の駅前広場に着くと、すでに三浦侑が立っていた。カジュアルな白いシャツに、ダークグレーのカーディガン。眼鏡の奥で光る瞳には、いつも通りの穏やかさと、どこか丁寧な温かさが宿っている。芙美は、彼の姿を見つけた瞬間、自然と微笑んだ。


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