令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~

第20話 これからも二人で



 休日の午前中、吉川芙美はカーテン越しに差し込む柔らかな光を浴びながら、キッチンのカウンターでコーヒーを飲んでいた。カップから立ち上る香ばしい香りが、部屋に静かに広がる。窓の外では、街路樹の葉が秋のそよ風に揺れ、遠くで響く子どもたちの笑い声や自転車のベルが、週末の穏やかな喧騒を彩っていた。
 芙美は、窓辺に寄りかかり、街の風景を眺めながら、これまでの自分の恋愛や日常を振り返った。侑との出会い――カフェでの偶然の再会、美術館での静かな時間、初デートの温もり、告白の瞬間――が、まるで一本の糸で繋がれているように、彼女の心に鮮やかに刻まれていた。
 ――侑さんと出会ってから、私の世界はこんなにも温かく、穏やかになった。
 その思いが、彼女の胸にじんわりと広がった。恋愛に慎重だった自分。それでも、侑の誠実な笑顔や穏やかな言葉が、まるで春の陽だまりのように、彼女の心を温め続けていた。

 背後で、そっと足音が聞こえた。振り返ると、三浦侑がリビングに現れ、柔らかな笑みを浮かべていた。カジュアルなセーターに、眼鏡の奥で光る瞳。少し寝ぐせのついた髪が、朝の無防備な魅力を漂わせている。
「芙美さん、コーヒー冷めちゃうよ」
 侑が柔らかい声で言い、隣に腰を下ろした。
「ありがとう、侑さん。ちょうど味わっていたところです」
 芙美は微笑みながら答えた。二人の手が、テーブルの上で自然に触れ合った。指先から伝わる温もりが、まるで心の奥まで届くようだった。朝の光が、二人を優しく包み込み、リビングに穏やかな空気を生み出していた。



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