令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~




 「……仕事、忙しいんだよね」
 芙美は自分に言い聞かせるように呟いた。だが、心のどこかに、落ち着かない気持ちが広がる。昨夜の侑の声があまりに温かかったからこそ、この沈黙が余計に冷たく、遠く感じられた。恋愛に慎重だった自分。それでも、侑との出会いが、彼女の心に新しい光を投げかけていた。この関係が始まったばかりだからこそ、小さな空白が大きな不安を呼び起こしていた。

 慌ただしく支度を済ませ、芙美はいつものようにアパートを出た。秋の朝の空気が頬を冷たく撫で、街路樹の葉がそよ風に揺れる。電車に揺られながら、彼女は再びスマートフォンを開いた。画面は静かなまま、動く気配はない。胸の奥に、小さな棘のようなものが刺さったような感覚が広がる。

 ――もしかして、冷めてしまったのでは?

 そんな考えが頭をよぎり、芙美はすぐに打ち消した。侑の誠実な笑顔や、電話越しの穏やかな声が、彼女の心にしっかりと刻まれている。なのに、たった一つのメッセージがないだけで、心がこんなにも揺れるなんて。自分でも少し子どもっぽいと思うが、不安は簡単には消えなかった。


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