令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~


 その夜、芙美はアパートのリビングでソファに座り、電話を待っていた。窓の外では、都会の光が静かに瞬き、遠くで電車の音が響く。スマホが震え、侑の名前が画面に表示された瞬間、彼女の心が軽く跳ねた。
「芙美さん、ごめん。やっと落ち着いた」
 電話越しの侑の声は、いつもより少し疲れていたが、変わらない穏やかさと優しさがそこにあった。
「ううん、大丈夫……侑さん、忙しかったんでしょ?」
 芙美の声も、自然に柔らかくなった。侑の声には、彼女の不安を溶かす力があった。
「うん、朝からトラブル続きで……でも、芙美の声聞いたら、やっと一息つけた」
 その言葉に、芙美の胸の奥がじんわりと温かくなった。電話越しの小さな笑い声や、疲れを隠さない素直な口調が、彼女に安心感を与えた。
 芙美は、静かにそう思えた。

 電話を切り、芙美はベランダに出て夜空を見上げた。都会の光に少し霞む星々が、静かに瞬いている。侑との時間が、まるで心のキャンバスに新しい色を塗るように、彼女を満たしていた。
 

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