令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~

第2話 ランチの約束



 金曜日の朝、吉川芙美はオフィスのデスクで書類を整理していた。窓から差し込む秋の光が、キーボードやデスクの上のメモを柔らかく照らす。ふと、机の隅に置かれたスマートフォンが小さく震えた。芙美はそっと画面を覗き込み、表示された名前を見て、思わず口元に笑みが広がった。

【お昼、時間取れそう。近くまで行けるけど、会える?】

 三浦侑からのメッセージだった。短い言葉なのに、芙美の胸がふわりと温かくなった。忙しい彼が、わざわざ時間を作ろうとしてくれている。そのさりげない心遣いが、彼女の心に小さな火を灯す。
 
 芙美は、画面を見つめながら、そっと心の中で呟いた。侑との関係はまだ始まったばかり。カフェでの偶然の再会、電話越しの温かな会話、すれ違いを乗り越えた安心感――それらが、まるで一本の糸で繋がれているように、彼女の心に刻まれていた。恋愛に慎重だった自分。それでも、侑の誠実な笑顔や穏やかな声が、彼女の心に新しい光を投げかけていた。

「……うん、もちろん!」
 思わず小声で呟いてしまい、隣の席に座る美咲に「なに?」と怪訝な顔をされて、芙美は慌ててごまかした。
「う、ううん、なんでもない!」
 頬が少し熱くなり、芙美は急いで返信を打った。
【うん、会える!楽しみにしてるね】
 送信ボタンを押すと、胸の奥に期待が膨らんだ。



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