令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~


 昼休みになり、芙美は会社の近くにある小さな洋食屋に向かった。人気店でいつも行列ができているが、侑が先に着いて席を確保してくれていた。
 ガラス張りの入口から店内を覗くと、窓際の席で手を上げる侑の姿が見えた。スーツ姿の彼は、仕事モードの鋭さを漂わせながらも、芙美と視線を合わせた瞬間、柔らかな笑顔に変わった。そのギャップに、芙美の心臓が小さく跳ねた。
「こっち」
 侑の声が、店内の喧騒を抜けて届く。芙美は微笑みながら席に着き、メニューを手に取った。木製のテーブルには、シンプルなカトラリーと小さな花瓶が置かれ、窓の外では昼休みの雑踏が賑やかに動いている。二人は並んで座り、メニューを覗き込んだ。
「おすすめってある?」
 侑が軽い口調で尋ねると、芙美はメニューを指さしながら答えた。
「ハンバーグが人気らしいよ。……でも、侑さんが食べたいの頼んで」
「ん、じゃあ芙美が食べたいのにしよう。どれがいい?」
 侑の自然な言葉に、芙美は妙に嬉しくなった。さりげない気遣いが、まるで心の奥にそっと触れるようだった。


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