令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~


 料理が運ばれてくるまでの短い時間、二人は軽い会話を交わした。侑は、朝からの会議やクライアントとのやりとりをさらりと話した。普段なら忙しさに疲れてしまうような話題も、彼の穏やかな口調で語られると、どこか楽しげなエピソードに聞こえた。
 芙美もまた、「私もね」と自分の職場の出来事を語り始めた。新しいプロジェクトの話や、同僚との小さな笑い話。普段ならただの日常の断片が、侑と共有することで、まるで小さな冒険の記録のように輝きを帯びた。
 ハンバーグとサラダが運ばれてくると、二人はフォークとナイフを手に、笑顔で食事を始めた。窓から差し込む昼の光が、テーブルの上を温かく照らし、店内の喧騒が遠くに感じられた。芙美は、侑の食べる姿をちらりと見ながら、彼のさりげない仕草に心が温まるのを感じた。
 食後のコーヒーを前に、侑がふっと表情を緩める。

「……こうやって少しでも会えると、頑張ろうって思える」
 その一言に、芙美は言葉を失った。胸の奥が熱くなり、視界が一瞬にじんだ。侑の真剣な瞳を見つめると、彼女の心にじんわりと温かな波が広がった。
「私も……侑さんとこうやってると、なんだか元気が出る」
 芙美の声は小さく、だが心からの想いが込められていた。侑が柔らかく微笑むと、二人の間に静かな空気が流れた。


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