令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
第3話 些細な嫉妬
週明けの月曜、吉川芙美はオフィスのデスクへ戻る途中、書類の束を抱えていた。窓から差し込む秋の光が、書類やキーボードを柔らかく照らし、オフィスにはいつもの月曜の活気が漂っている。エレベーターを降りた瞬間、休憩スペースから同僚の女性たちの楽しげな声が聞こえてきた。
「昨日、三浦さんと打ち合わせしたんだけど、やっぱり素敵よね」
「わかる! あの落ち着いた感じ、ほんとに頼れるっていうか……カッコいいよね」
その名を聞いた瞬間、芙美の足がぴたりと止まった。三浦侑。彼女の心に深く根付いている名前が、まるで軽やかな波のように、同僚たちの会話の中で弾んでいる。仕事の相手として名前が出るのは当然だ。侑はデザイナーとして優秀で、クライアントや同僚から信頼されている。それなのに、なぜだろう。胸の奥に、ちくりと刺さるような痛みが走った。
――どうして、こんな気持ちになるの?
芙美は書類を抱えたまま、立ち尽くした。彼女たちの笑顔や、頬を赤らめて侑を語る様子が、頭の中で繰り返される。侑の穏やかな笑顔、電話越しの温かな声、週末のランチで交わしたさりげない気遣い――それらが、芙美にとって特別なものだったからこそ、他人と共有されていると思うと、心がざわついた。
「私……嫉妬なんて、するんだ」
心の中でそう呟き、芙美は小さく苦笑した。自分でも驚くほど、感情が揺れていた。恋愛に慎重だった自分。侑との関係が始まったばかりだからこそ、こんな小さなことで心が揺れるのかもしれない。彼女は深呼吸して気持ちを落ち着け、デスクに戻ったが、胸の奥のモヤモヤは簡単には消えなかった。