令和恋日和。 ~触れられない距離に恋をして~
やがて、スマホが震え、侑の名前が画面に表示された。芙美は深呼吸して電話に出た。
「芙美さん、お疲れ。やっと仕事が落ち着いたよ」
侑の声は、いつもより少し疲れているようだったが、変わらない穏やかさと優しさがそこにあった。声を聞いた瞬間、芙美の心に溜まっていたざわつきが、まるで風に吹かれるように少し和らいだ。それでも、昼間の同僚たちの会話が頭を離れず、彼女は思わず口を開いた。
「ねえ……侑さんって、会社で結構人気あるよね」
言葉が口をついて出た瞬間、芙美は自分の声が少し震えていることに気づいた。言ってしまったことを後悔したが、もう遅い。電話の向こうで、一瞬の沈黙が流れた。
そして、侑がくすっと笑った。
「まさか、嫉妬?」
その軽い口調に、芙美の頬がカッと熱くなった。
「ち、違っ……」
そう、言いかけて言葉が途切れる。図星だったからだ。自分でも認めたくなかったのに、侑の言葉が、まるで心の奥を見透かしたようだった。
侑は少し声を低め、穏やかに続けた。
「芙美、俺が一番大事にしてるのは芙美だから。ほかの誰にどう思われても、関係ないよ」
その真っ直ぐな言葉に、芙美の胸の奥がじんわりと温かくなった。昼間の同僚たちの会話が、まるで一瞬で吹き飛び、彼女の心にあった小さな刺が抜けていく。侑の声には、迷いのない誠実さが宿っていた。