愚図な妖狐は嗜虐癖な陰陽師に甘く抱かれる ~巡り捲りし戀華の暦~
ようやく尾から手が離れた──そう思ったのも束の間、腕を強く掴まれ、龍志に力ずくで引き寄せられた。背筋に残る痺れで頭がクラクラするが、自分の状況を把握するのに時間はかからなかった。
布団の中に無理やり引きずり込まれ、組み敷かれていた。触れ合いそうなほど近い距離に、眠そうなのに嗜虐的に笑う龍志の顔が映る。
瞼が重たいせいか、いつもより細い目は鋭く、艶やかさを含んでいて、キネはゾッとした。
それはどこか意地悪な彼の顔とも違う──雄の顔と言えるだろう。黒曜石の瞳に揺らぐ灯りは、きっと色欲だ。
自分をそんな目で見ていると悟った瞬間、キネの頬に熱が押し寄せた。
「その勇気は褒めてやる。女に恥をかかせる程、俺も落ちぶれてない」
彼の言動から色欲を悟ったのは正しかった。彼は明らかに勘違いしている。そう思った瞬間、均整の取れた顔が近づき、唇に生暖かい感触が触れた。
──接吻されている。
タキから聞いた愛情表現の与太話が脳裏をよぎり、これは厭らしい行為の前段階だと確信した。
彼は「恩は身体で払え」と言った。あのとき、まさかと思ったが、掃除の要求で安堵した。だが、本当の意味を悟り、キネの身は戦慄いた。
確かに、龍志の風貌はひと目見て素敵だと思った。「誰かに会いたい」という本能は彼に会った途端に消えた。彼は過去の鍵かもしれない。だが、知らない他人だ。
惹かれていた自覚はあった。だが、彼は人。関わるべきではないと分かっている。
このままそばにいれば、彼を途方もなく愛してしまうと本能的に感じていた。だから、逃げられたらすぐ忘れるべきだと考えていたのだ……。
布団の中に無理やり引きずり込まれ、組み敷かれていた。触れ合いそうなほど近い距離に、眠そうなのに嗜虐的に笑う龍志の顔が映る。
瞼が重たいせいか、いつもより細い目は鋭く、艶やかさを含んでいて、キネはゾッとした。
それはどこか意地悪な彼の顔とも違う──雄の顔と言えるだろう。黒曜石の瞳に揺らぐ灯りは、きっと色欲だ。
自分をそんな目で見ていると悟った瞬間、キネの頬に熱が押し寄せた。
「その勇気は褒めてやる。女に恥をかかせる程、俺も落ちぶれてない」
彼の言動から色欲を悟ったのは正しかった。彼は明らかに勘違いしている。そう思った瞬間、均整の取れた顔が近づき、唇に生暖かい感触が触れた。
──接吻されている。
タキから聞いた愛情表現の与太話が脳裏をよぎり、これは厭らしい行為の前段階だと確信した。
彼は「恩は身体で払え」と言った。あのとき、まさかと思ったが、掃除の要求で安堵した。だが、本当の意味を悟り、キネの身は戦慄いた。
確かに、龍志の風貌はひと目見て素敵だと思った。「誰かに会いたい」という本能は彼に会った途端に消えた。彼は過去の鍵かもしれない。だが、知らない他人だ。
惹かれていた自覚はあった。だが、彼は人。関わるべきではないと分かっている。
このままそばにいれば、彼を途方もなく愛してしまうと本能的に感じていた。だから、逃げられたらすぐ忘れるべきだと考えていたのだ……。